オヤジが箱に入っていても可愛くないし。

 

ハッと気が付いた時には、車は正面に迫ってきていた!

身体は本能的に左端へ自転車を寄せる。

ちょっとびっくりしたが、離合は難しくない道路の幅だ。

しかし、車は何故か同時に同じ方向へ!

死ぬ。

 

1988年の早春の事だ。

寒いスイスから逃れ所属チームの合宿と合宿後に

2レースを走る為にイタリア西北部のリビエラ海岸へ。

ジェノバ~サンレモ~ニース(フランス)につながる温暖な

海岸地帯。避寒地で高級リゾート地。

 

日本でも海外でサンレモでもやっぱり練習へ。

悲しくもうれしい自転車乗りの日常生活だ。

何故だかその日は峠を一人で下っていた。

ミラノ~サンレモのポッジオノの丘に代表されるように、

あの辺りは、海岸線から離れると結構登りが有る。

結構な勢いで下っていた。

センターラインのない峠道だが、車が普通にすれ違える幅は有る。

登りの苦しさを忘れるような下りを軽快に飛ばしていた。

 

中高速でクリアできる左コーナーを道路の半分より左側を走っていた。

左側?ここはイタリア右側通行だ!

一人で走っていたこと、センターラインが無い道だったこと、春先で

日本を離れて時間がたってない事の悪条件が重なり、いつの間にか

道路の左側を走っていた。

 

高速でイン側を走る私の正面から車が走ってくる!なぜ?

このままではぶつかると思った私は左による。

日本人脳の私には当然の反応だった。

一方、生粋のイタリア人(多分)の運転手はぶつからないように本能的に

右にハンドルを切った。

ほぼ正面衝突の軌道に入った。

 

正面衝突が確定的になったその時、最後の回避行動として、

私はさらに左に軌道を取り、バイクの上で正面からぶつかるのを

回避するために体をねじった。

無理な姿勢で右ペダルが外れて、自転車の上でたこ踊りになった。

同時に、車の運転手は流石に右ではなく左に避けなければ

この衝突は避けられないと判断したようで、少しラインを左に取り

たこ踊りする私の身体に車体をこするようにして、走り去った。

一瞬。時間にして2秒程度の事か。

死神から逃れ命を拾った。

 

私はたこ踊りから落車もせずに無事復帰し、脂汗を流した。

『くっそー、なんていう運転しやがるんや!』 罵詈雑言が頭の中を駆け巡る。

そこで、ハッと気が付く・・・ここはイタリア!右側通行だ。

すまんかった。運転手のお兄ちゃん。

相当びっくりさせた。

 

おそらく相対速度は100㎞以上。正面衝突していれば

あの時死んでいても全く不思議ではなかった。

ちょっとした偶然で私は死なずに済み、運転手は

死亡事故の当事者にならずに済んだ。

今でも思い出すと、背筋が寒くなる出来事だった。

 

自転車に乗ると言う事は、ある意味非常に危険であり

常に事故の危険が付きまとう。

60㎏の物体(身体)が高速で移動すると言う事はそういう事だ。

 

だが、ほとんどの事故は避けられるし、一般的な事故のリスクは

確実な注意行動によりほとんどゼロに近く抑えられるはずだ。

向こうから飛んでくるような事故は避けようがないのは当たり前だが

これは、道を歩いていても起こりうることだから、考えてみても

仕方ない。

 

事故が嫌なら自宅でじっとしていればいいのだが、

それでは楽しくないし何も生まれない。

事故を避け、無事故で長生きだけが人生の目標ではない。

全ての行動にリスクが伴うが、良い行動は成果や喜びを与えてくれる。

安全に留意することは大前提ではあるが。

 

うら若き乙女ではないのだから、箱に入っていても仕方がないよな。

明日も事故に注意して、練習に行こう。

行動からしか結果は生まれない。